
内視鏡と腹腔鏡って??
こんにちは。外科医のもぐたんです。
「あー。◯◯さん、なにかここに出来ものが見えますね。がんかもしれないから取りましょう。」
医師に急にそう言われたら頭が真っ白になってしまうかもしれません。
そうこうしているうちに話は進んでしまい、同意書を渡され、
「それでは、これをやりますので後でここにサインしてくださいね。」
“えっ?結局、どうやって取るの?内視鏡?腹腔鏡?これは検査なの?手術なの?”
また別の場面では…
「◯◯さん、手術が必要ですね。今までおなかを手術されたことはありますか?」
“”はい。以前に大腸のポリープをとってもらいました。””
「あー。それは内視鏡ですねー。」
“今回はおなか開くんですか?それとも内視鏡?カメラの手術もありますよね?”
「そうですね。今回はまず腹腔鏡でやりますね。」
“???”
このような経験はありませんか?
内視鏡と腹腔鏡。
一見言葉は似ていますが検査、治療としては別物です。
ここでは「内視鏡」と「腹腔鏡」の違いについて解説していきます。
内視鏡とは
一般的に内視鏡は、体の中を覗くためのカメラで、主に食道、胃、大腸などの消化管や、空気の通り道である気管、おしっこの通り道である尿道などの「管」を観察するカメラのことをいいます。
消化器領域では主に消化器内科医が行います。
いわゆる「胃カメラ」、「大腸カメラ」の事です。
口や肛門から細くて長いチューブを挿入して、胃、腸などを直接観察することで病気を見つけたり、場合によっては治療するものです。
例えると、井戸の中を先端にライトとカメラをつけた紐を垂らして、内部を観察していくようなイメージです。
現在では、内視鏡の機能が進化し、カメラで観察するだけでなく、先端に超音波検査の機能を組み合わせる超音波内視鏡などもあります。
通常の内視鏡検査では直接見ることの出来ない、深い部分や、消化管の壁の構造、近くの臓器の様子などが観察できるものもあります。
超音波内視鏡に関してはこちらの記事で解説しています↓↓↓
昔は、観察したり、組織を採取(生検)して診断をつけたりがメインでしたが、今は技術の進歩のため、早期癌などを含む表層の病変に関しては切除出来るようになりました。
観察するだけの健診などの「スクリーニング検査」は健診医や消化器外科医も行うことはありますが、早期癌の切除など専門性の高い治療、いわゆる内視鏡手術は消化器内科医が行うことがほとんどです。
腹腔鏡とは
一方、腹腔鏡とは、「腹腔内」、おなかの中の空間を直接みるためのカメラになります。
おなかに直接小さな孔をあけ、おなかの中に二酸化炭素ガスを注入し、おなかの中を最大限膨らました状態にします。
その状態でカメラをおなかの中に挿入して直接おなかのなかの臓器を観察、治療をしていくものです。
用いるカメラは内視鏡の一種のため混同しやすくなりますが、内視鏡で用いる長くて柔らかいファイバースコープとは違い、金属製の硬い直線状の「硬性鏡」や、先端が曲がる「軟性鏡」を用います。
おなかという箱に小さな孔をあけて、孔からこのカメラを挿入し、中に置いてあるもの(臓器)を探索していくようなイメージですね。
たまにデパートやゲームセンターに、筒や球体の中を空気で舞っているくじを取るゲームがあると思います。
あれを中が見えないように隠して、孔からカメラを入れてTVモニターを見ながらマジックハンドでくじを掴みに行くゲームのようなイメージですかね。
腹腔鏡はおなかの中に二酸化炭素ガスを注入することで、おなかをパンパンに膨らませて空間を作ることで道具を操作できるようにします。
そのため意識のある状態で行うことは出来ませんので、手術室で全身麻酔下で外科医が行う必要があります。
内視鏡手術と腹腔鏡手術の違い
内視鏡と腹腔鏡の技術が進歩したことで、必ずしも手術を開腹の手術で行う必要はなくなりました。
では内視鏡手術と腹腔鏡手術はどう違うのでしょうか。
内視鏡手術
消化管(食道、胃、十二指腸、大腸)を内部から切除していきます。
口や肛門の元々ある孔からカメラを挿入します。
内部から切除するため体には傷はつきませんが、消化管内部の組織(主に粘膜)の切除に限られます。
臓器そのものの切除や周囲のリンパ節といったものの切除は行えません。
また消化管は内側の粘膜より深い層まで病変が到達している場合は、そのまま切除すると消化管に孔が開いてしまう可能性があるため、治療の適応は比較的表層の病変、癌であれば早期癌に限られます。
腹腔鏡手術とは違い、内視鏡室で全身麻酔を行なわずに鎮静剤で行えるため、体にかかる負担は最も軽いものとなります。
完全に意識を失うものでなくウトウト程度になるので、ちょっとポリープを切除したりするのであれば外来で日帰りで行えます。
早期癌やサイズの大きいものは合併症のリスクも高まるので入院で行うことが多いです。
腹腔鏡手術
腹腔鏡手術は手術室で全身麻酔下で行います。
おなかの外(腹壁)から孔を複数箇所あけて傷を作り、そこからカメラや手術を行う道具をおなかの中(腹腔内)へ挿入していきます。
臓器そのもの、もしくは臓器の一部、その周囲の組織(リンパ節など)を切除することを目的とします。
手術で切除する範囲は開腹手術と同じものになります。
というより、開腹手術と同じクオリティで切除することを前提・目標にしています。
臓器そのものを切除する手術のため内視鏡手術に比べると侵襲度が高く、取れる組織も大きく、内視鏡手術より侵襲度、リスク共に高くなります。
全身麻酔が行える全身状態である、という条件が必要ですが、開腹手術に比べると傷も小さく、術後の開腹も早いため一般的に「低侵襲手術」と呼ばれます。
近年急速に普及しているロボット手術も低侵襲手術である腹腔鏡手術の一部になります。
開腹手術、腹腔鏡、ロボット手術に関しては別の記事で解説することにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
内視鏡と腹腔鏡の違いについて解説していきました。
内視鏡と腹腔鏡は、どちらもカメラを使って体内を観察・治療する方法ですが、その目的や方法、使う場面には大きな違いがあります。
内視鏡は口や肛門から柔らかいスコープをいれて、消化管(食道、胃、十二指腸、大腸)を内部から検索していきます。
内部からみえる早期癌やポリープを切除するのが内視鏡手術となります。
一方、腹腔鏡はおなかに小さな孔をあけて、その孔からおなかの中に硬いカメラを入れて臓器をみる方法で全身麻酔で行われます。
そこから開腹手術と同様の臓器を切除していくのが腹腔鏡手術となります。
どちらも「カメラで見る治療」ではありますが、その仕組みや役割は全く異なり、治療の目的や体への負担にも大きな差があります。医師から説明を受けたときに戸惑わないよう、それぞれの特徴を知っておくことはとても大切です。
今日のもぐったー:
基本的に内視鏡は消化器内科の先生の手技ですが、昔の細分化される前だと外科医の先生もやることがありました。特に現行の研修医制度ができる前の関東の外科医は出来る人が多いのではないでしょうか。その先生方ももう中堅以上なのでやる機会は少なくなっていると思いますが😂私も非常勤のバイトの時にやったりすることもあります。
面白いことに地域性があって、関東の外科医は内視鏡をやることはあるんですが、東北地方では外科医が内視鏡を握ることはありません。関東の医師がバイトで内視鏡をやる必要性があったからなのか、東北地方の病院は某国立大学からの派遣や出向が多いので、その意向なのか。外科医といっても地域によって育ち方が変わってくるんですね。
西日本ではどうなんでしょう?今度機会があれば調べてみたいと思います。
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