
なぜ「腹腔鏡手術」なのに「内視鏡外科」と呼ばれるのか?
こんにちは。
外科医のもぐたんです。
以前のブログで患者さんがご自身の治療、特に手術についてどんな治療を行うのか。
特に、手術、内視鏡手術、腹腔鏡手術に関して解説しました。
以前の記事はこちら↓↓↓
これだけではまだ分かりづらいと言われることがあります。
なぜでしょうか?
実は、内視鏡、腹腔鏡の他に「内視鏡外科」という用語もあります。
・内視鏡、腹腔鏡と、「鏡」を使う内科の手術、外科の手術がそれぞれある
・「内視鏡手術」に対して「内視鏡外科手術」という用語もある
これらの用語のバリエーションが複雑にしている要因かもしれません。
内視鏡と腹腔鏡については解説しましたので、今回は2つめの「内視鏡外科」という用語を考えてみましょう。
なんでそうなっているのか。
今日は内視鏡外科などの医療用語について歴史的な背景も踏まえて解説していこうと思います。
分類や呼び方は“学会”が整理している
前回のブログで日本外科学会定期学術集会に参加したことをお話しましたが、医師が入会する学会ってたくさんあるんですよね。
学会に参加したときの記事はこちら↓↓↓
内科の先生であれば内科の、外科であれば外科の、全国規模の大きな学会から、自分の専門とする領域の学会まで様々です。
肝胆膵外科医の私が所属するものだけでも、
・日本外科学会
・日本消化器外科学会
・日本肝胆膵外科学会
・日本内視鏡外科学会
・日本臨床外科学会
・日本膵臓学会
といっぱいあります。
これだけではありませんが一部列挙するだけで、ちょっと引きますね笑
これら全て資格の取得、維持と自己研鑽のために、自費で年会費を払って、自費で学会に参加して、自費で宿泊費交通費を捻出して…(病院によります)。
いや、これ以上は愚痴になるのでやめましょう😂
とにかく、学会がたくさんあり、内視鏡に関わる学会、腹腔鏡に関わる学会というものがあります。
その中でも特に内視鏡外科に関して中心的な役割を果たしているのが日本内視鏡外科学会です。
「内視鏡外科学会」はこうして生まれた
昔は当然開腹の手術が主流だったわけですが、1987年にフランスで世界で初めて腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われ、そこから世界が変わっていきました。
1990年に日本で腹腔鏡下胆嚢摘出術が導入され、その後の急速な普及に対して国内でそれに対応する専門的学術団体の必要性が高まります。
そうして1991年に日本内視鏡外科学会が設立されたそうです。
消化器外科を中心に、さまざまな外科分野の医師が所属
大前提として、腹腔鏡で用いるカメラは「内視鏡」の一種です。これは前回もお話しましたね。
内視鏡の種類としてはそれだけでなく、
腹腔鏡に加え、胸腔鏡、関節鏡、膀胱鏡、経膣鏡なども含めた“内視鏡を用いた外科手術全般”をカバーするという方針から、
「腹腔鏡外科学会」ではなく、より包括的な「日本内視鏡外科学会(Japan Society for Endoscopic Surgery, JSES)」という名称が採択されたそうです。
前回の日本外科学会も同様に消化器外科だけでなく、色んな外科がありましたね。
今回も消化器外科医だけでなく、
呼吸器外科医、婦人科医、泌尿器科、一般外科医、小児外科医、一部の整形外科医、心臓血管外科、
などの医師も入会する多国籍な学会となっていて、
その結果、腹部手術において腹腔鏡で手術を行うことも、「内視鏡外科」の一部なんですね。
紛らわしい😂
ちなみに内視鏡外科学会で公表されている手術の内訳はこんな感じ↓↓↓

日本内視鏡外科学会2023年アンケートより引用
このように腹部外科だけでなく、色々な領域の内視鏡外科手術があるということですね。
件数的には腹部外科が一番多いので、イメージが強いですが産婦人科領域も年12万件と多いですね。
内視鏡外科、腹腔鏡という名称がつく、日本内視鏡外科学会が公認している研究会や学会だけでも、
・内視鏡外科フォーラム
・腹腔鏡下大腸切除研究会
・腹腔鏡下胃切除術研究会
・単孔式内視鏡手術研究会
・近畿内視鏡下大腸手術研究会
・北九州内視鏡外科(KES)
・埼玉県腹腔鏡下大腸切除懇話会
(これ以外にも各地方や県で研究会があるようです。)
などあるそうでさらにややこしくなります😂
まーこんな豆知識を覚えるよう必要は一切なく、
腹部の手術における、
「内視鏡外科手術とは腹腔鏡手術のこと」
と思っていただければ大丈夫です。
「内視鏡」の世界は内科が中心
日本消化器内視鏡学会が内科の中心学会
一方、内科での内視鏡の学会の立ち位置はどうでしょうか。
日本消化器内視鏡学会という学会が大きく、そこから各地方の支部へと分かれています。
支部は北海道から九州まで10程度に別れていてそのなかで研究会やセミナーが開かれているようです。
「日本消化器内視鏡学会」はこうして生まれた
歴史的には1806年にドイツで世界初の「体腔内観察器」を開発し、これが内視鏡の祖とされています。
この時、胃をみるだけでなく、膀胱や直腸をみるもの(膀胱鏡、直腸鏡)も開発されています。
日本では戦後直後の1940-1950年あたりでドイツやアメリカから内視鏡を導入し、
1950年代から本格的に「胃カメラ」の開発・普及が進み、
1961年に「胃カメラ研究会」が結成されました。
当時はリアルタイムにモニターに映す技術なんてありませんでしたから、
管の先端に光源とカメラがついていて、その光を頼りに「身体の外から」大体どこを写しているのか”想像”してカメラを1枚1枚撮影して、
全て検査が終わってから現像して初めてどこを撮影していたかわかったそうです。
お、恐ろしい…。
その後に1965年に今の「日本消化器内視鏡学会」という名前に改称・設立に至ったようです。
「診断+治療」へと進化してきた内科の内視鏡
その後消化器内視鏡としての専門技術がこの学会を中心に磨かれていき、
単に「体腔内を観察するための器具」から、「診断と治療を同時に行う装置」へと進化し、
1970年代以降は、止血・ポリープ切除・胆膵への応用など、治療も行える「内視鏡手術」へと続いていきます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
内視鏡外科手術とは、腹腔鏡や胸腔鏡など「体腔外側からの視覚的手術」を専門とする、外科医が行う手術のこと。
内視鏡手術とは、「消化管内腔側」からの診断・治療を行う、内科医が行う手術のこと。
ということになります。
同じ「内視鏡」でも、「アプローチする側」が異なるため、名称も似ているけども内容が異なり、別個の学会として発展していった、
ということになります。
呼び方に戸惑ってしまうのも無理はありませんが、今回の内容で少しでもスッキリしていただけたなら幸いです。
今後、医師から「内視鏡外科手術です」と言われたら、”あ、それって腹腔鏡手術のことね!”と胸を張ってうなずいてくださいね。
少しでもためになったと思ったら、ぜひ良いねや、はてなブックマーク、SNSシェアをよろしくお願いします☺️
それでは、さよなら、さよなら、さよならー☺️
今日のもぐったー:
腹腔鏡、内視鏡、内視鏡外科…。本当に色々あって複雑なんですよね。私も医学生や研修医の頃は違いをあまり認識できていませんでした。特に内科の先輩(内科になったばっかりの大学の直上の人)や知り合いの先生から「内視鏡学会(内科の学会)入っておいた方が良いよ。」とか言われた日には、気前よく「わかりました!!」っと返事はするものの「え?俺外科医だけど、マジで入った方が良いの?」「それとも内視鏡外科学会のこと間違っている?本当に消化器内視鏡学会のこと?」と混乱したことがあったことを覚えています。もしかしたらその人も消化器内科医になりたての先輩だったので、違いをわかっていなかったか…、心から勧めていてくれたのか…。どっちだったんだろう…?その先輩とはもう10年以上は会っていないのでもはやわかりません笑 ちなみに消化器内視鏡学会に入ることは消化器外科医として、将来的に開業したり、外来などで検査をすることがなければ、消化器外科医のキャリアとしては変わらないことがほとんどで、よほどやる気がなければ年会費などで毎年1-2万出費していくだけだったでしょう。
学会の細分化がひどいからまとめよう。と話題になり早10数年。いつまで研鑽のために年会費を自費で捻出すれば良いのでしょうか。誰か学会をまとめる人が現れてくれないかなぁ(他力本願)。