NHKスペシャルを見て医療の未来を考えよう。

NHkスペシャルをみて医療の未来を考えよう。 徒然不思議メモ
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NHKスペシャルを見て医療の未来を考えよう。

現在の医療のリアルはどうなっている?

こんにちは。

外科医のもぐたんです。

2025年5月31日と6月1日にEテレとNHKで今の日本の医療に直面している現実、その中での厳しさを実感するドキュメンタリースペシャルが放送されました。

“断らない病院”のリアル - ETV特集
「患者を断らない」を理想に掲げ、年間3万人の救急患者を受け入れる地域医療“最後の砦”にカメラが入った。神戸市立医療センター中央市民病院。「働き方改革」という現実に“医療の質”をどう守るのか苦悩する医師。過去最大規模の赤字も明らかになり、経営...
ドキュメント 医療限界社会 追いつめられた病院で - NHKスペシャル
「患者を診ない医師もいれば、薬の処方を間違える医師もいます・・・」ある病院からNHKに届いた“限界”を訴える悲鳴。取材班のカメラが記録したのは、深刻な医師不足を背景に「医療の質」という、守るべき一線が脅かされているという衝撃の実態だった。こ...

勤務医をやっている自分にも人ごとではないことですが、そんなシビアなものが放送されていたとは知らずのほほんとお出かけしていました😂

某SNSでも医師アカウントと思われる方々のpostでも話題になっていたので、リアタイでは見逃してしまいましたが、NHK+で見逃し配信をしていたのでわざわざ新規登録をして夜な夜な一人で見入ってしまいました。

以下、自分の思ったことをつらつらと書いていこうと思います。

あくまで私見なので、あくまで感想です。

ネタバレ?というほどではないですが、気になる場合は先に視聴してからをお勧めします。

ただ、今の日本はどの業種でも大変だと感じていますが、医療の問題も根深い、先が暗いな。という内容。

でもその中でも出来ることをやっていかなければならないんだけれども。

患者さんをいくら診ても赤字になる

まず5月31日に放送されたのが、”断らない”病院のリアル、という神戸の三次救急病院を取材したものでした。

三次救急とは救命救急センターなど一次救急や二次救急では対応の出来ない、生命に関わる重症患者さんを24時間受け入れる、いわば最後の砦のような病院です。

ざっくり、
かかりつけ医、休日夜間急患センター→地域の救急病院→救命救急センター

のような流れになっています。

その中で、神戸にある「神戸市立医療センター中央市民病院」がピックアップされていました。

HPはこちら↓↓↓

神戸市立医療センター中央市民病院
神戸市立医療センター中央市民病院は、神戸市の基幹病院として、市民の生命と健康を守ることを目的に、患者中心の質の高い医療(救急医療・高度医療・災害医療など)を提供していきます。

なんと厚生労働省から発表される「救命救急センターの評価結果(令和6年)」では、全国に308ある救命救急センターの中で、「第1位」を11年連続獲得している病院なんだそうです😯

11年 連 続 救 命 救 急 セ ン タ ー 全 国 第 1位 |神戸市立医療センター中央市民病院
11年 連 続 救 命 救 急 セ ン タ ー 全 国 第 1位についてはこちらのページをご覧ください。

HPより引用

とても素晴らしい実績ですが、そのリアルは。

20-30時間連続でひたすら働き続ける救急医、夜通し休まず手術し続ける外科医、そして疲弊していく姿、それを管理する院長をはじめとする管理職の方々の苦悩が映し出されます。

院長が「退職者はあまり出てない?」と病棟で声かけると、答えられず苦笑するスタッフが色々物語っているなと思います。

労働基準監督署からの是正勧告も受けることがあるという。

さらに30億円超の赤字という現実。

救急病院として日本一の称号を持つ病院ですら赤字経営。

これがいかに異常なことか。

一般企業の場合、ある分野で日本1位の会社が赤字なんてことがありえるでしょうか。

働き方改革と診療報酬

働き方改革と診療報酬という問題があります。

書き始めると膨大な量になってしまいますので、ざっくり解説。

医師の働き方改革とは2024年4月から始まった、表向きは医師の過重労働を減らす制度です。

以下の水準での働き方に分けて病院が分類されました。

  • 水準A:年の時間外労働時間960時間以内(月100時間以内) ←基本的に全ての医療機関に推奨
  • 水準B(救急医療施設やがん拠点施設):年の時間外労働時間1860時間以内
  • 水準C(研修医や専門研修病院)):年の時間外労働時間1860時間以内

連続28時間働いた場合には9時間のインターバル休憩をとらなければならない。

などの条件もあります。

一般の労働者の通常の上限は360時間、例外で720時間となっていて、
いわゆる「過労死ライン」とされる時間外労働時間は、
1ヶ月あたり80時間、2-6ヶ月で平均月80時間超とされています。

この時点で水準A(一番マシ)ですら普通の働き方とは程遠いのがよくわかります。

しかも普通に働いていたのでは、水準Aには絶対に到達出来ないため、それを実現するために「宿日直許可」というものが”発明”されました。

これは簡単にいうと、病院に寝泊まりしていても、泊まって監督するだけだったら、診療していないから休憩とみなして良いよね?という許可で時間外労働には当たらなくなります。

通常、前述のように28時間以上の勤務、つまり病院に当直(寝泊まり)したら9時間帰らなければならない、というルールも、休憩時間だから労働時間には含まれない、ということになり適用されません。

病院に寝泊まりした翌日も普通に日勤勤務を行う必要が出てきます。

実際にはただ病院に寝泊まりするだけでなく、病棟での有事の対応、救急外来、救急車の対応も制度は始まる前と何も変わらず、”普通に”働いています。

つまり合法的に無報酬もしくは働きに見合わない安価な報酬で働くことが認められただけの状態です。

そして、診療報酬です。

日本の医療は診療報酬という、病気や医療内容ごとに細かく報酬が決まっています。

その中でも大きい病院では、DPCという包括払い制を取っていて、報酬は定額になっています。

例えばいわゆる盲腸だと、
【虫垂切除術(膿瘍なし)】
入院期間Ⅰ(~2日):4,115点/日
入院期間Ⅱ(3~5日):1,854点/日
入院期間Ⅲ(6~30日):1,943点/日
1点は10円
のような具合です。

多くは、「最高の治療で、経過が最もよく、最短の入院」、
の場合に最も高い(といっても、これが通常)報酬となっており、期間が長くなるほど、多くの医療資源を使うほど、報酬が減額されていく制度になっています。

Ⅲ以降になると持ち出しで赤字になります。

この報酬の分類に合わせて儲けが出るようにひたすら空きベッドを作らないように埋め続けながら、回転数をあげて、

空いたら埋める、空いたら埋める、を休むことなく行い、やっとわずかに黒字がでるシステムになっています。

求められるのはほぼ常に満床の状態です。

その状態でのやっとの黒字を出すために、前述の連続勤務の医師が、一切のミスをすることすら許されず、気を張りながら毎日の診療にあたっているのが、日本の最前線の医療です。

この診療報酬は2年に1度改定されることになっていて、最近は毎回多くの病院にとって収益が減るような厳しい改定になっています。

医師は働く上限時間が決められている(決められてしまった)ため、実際は働いているのに「自己研鑽」という言葉(報酬が発生しない魔法の言葉)で決められた時間を超えないように申請し、無給で働き、時間外勤務時間を極力抑えて提出することになります。

勤怠管理をきっちり記録?するようになった結果、時間外申請は増え、病院側は時間外に対する報酬を支払う義務が出てきたり(医師が新たに要求したわけではなく以前までは支払われていなかっただけの正当な報酬)、インフレによる材料費の高騰などで全国の国公立病院の約7割が赤字、というのが現状です。

地域医療は人手不足でもっと辛い

都市部の病院は患者さんも多いし、忙しいからそうなるのでは?

そういうわけではありません。

ドキュメント 医療限界社会 追いつめられた病院で - NHKスペシャル
「患者を診ない医師もいれば、薬の処方を間違える医師もいます・・・」ある病院からNHKに届いた“限界”を訴える悲鳴。取材班のカメラが記録したのは、深刻な医師不足を背景に「医療の質」という、守るべき一線が脅かされているという衝撃の実態だった。こ...

翌日6月1日に放送されたこちらの番組は、島根県の地域の総合病院でのマンパワー不足による質の低下、経営危機について取り上げられていました。

島根県の江津市の済生会江津総合病院という地域の中核を担う病院のようです。

HPはこちら↓↓↓

済生会江津総合病院

まー正直冒頭の部分や医療安全の看護師さんの問題ある医師へのコメントなどは悪意を少し感じなくもなかったですが😂

しかし、これは単に医師のレベルが低いというだけの問題でもないのです。

年間1000件の救急車をさばく総合病院で、常勤の医師が最近半分以下(28人→12人)になったとのこと。

人材不足で70歳過ぎの一度引退した先生方が再度復帰し、若干自分の行っている内容に関して物忘れ、指示忘れを自覚しながら大きなミスに注意しながら診察をする日々。

どんどん人が減っていく…。

それでも患者さんが減るわけではない。

一人ひとりがやらねばいかぬこと、責任ばかりが増えていく。

余裕がなくなりミスが増えていく。

その対応に追われさらに辛くなる。

見ていて辛いです。

この病院が特別大変、地方の病院だから大変、ということではなく今全国の中小規模の病院はこのような状態に陥っていると感じています。

もちろん地方は顕著だとは思います。

臨床研修医制度と偏在化

2004年度から始まった新臨床研修医制度。

20年前なのに未だに新ですが😂。

医師になったら大学病院の各科に所属し、その科の医局の指示で各病院に修行先として振り分けられる。

そこから、

大学病院から総合病院まで、厚生労働省から認可を受けた研修指定病院を医学生が自分で病院を探し、希望し、就職を決め色んな科を回る研修医生活を送り、その後は自分で専門科を決め、就職する。

そんな制度です。

かくいう私もこの制度の中で育ってきました。

色々原因はあるかと思いますが、この制度で医師の専門科、地域の偏在化が顕著になっていったところはあると思います。

2年間の研修医生活で自分が体験したうえで科を選べるわけですから、
好きは好き、嫌いは嫌いで、偏りがちになります。

その偏在化の対策として、2008年度から医学部の定員増員が行われ、年7500人程度から年9500人程度に増えましたが、現場の人手は変わらずむしろ少ないままという実感です。

それはなぜか?

医師は増えているはずが、長期にわたる診療報酬の改悪、コロナ禍、過酷な労働環境、働けど働けど余計に大変になる医師の働き方改革、医療訴訟のリスクの増大、人手不足からの診療科の閉鎖、病院の撤退、

これらから医療崩壊が顕著になっていき、

それらを憂いた若手医師はさらに条件の良い都市部、人気診療科、自由診療へと流れていくのは自然な流れなのかもしれません。

番組では、医師の偏在が招いた結果、医療崩壊が進んでいる。

という流れ、結論に陥りやすいです。

しかし、どちらかといえばもう既に医療崩壊は進んでいて、

その結果、医師の偏在化が加速した。という方が正しいかもしれません。

人、マンパワーって本当に大事で。
人がいることで出来ること、人がいないことで出来ないことって本当にシビアだと思います。

いなければどう頑張っても出来ないものは出来ないのです。

ミスが多い人材を淘汰することも出来ないので結果、ギリギリの人数でさらに全体の質も低下することに繋がります。

まとめ

この週末に放送された2つの医療番組について取り上げてみました。

既に放送が終わってしまった番組に対して、ここまでつらつらと書いてしまいました。

NHK+に登録すると、1週間の見逃し配信を見ることが出来ます。

この機会にぜひ登録してご覧になってみてください(案件ではありません笑)

https://plus.nhk.jp/info   

↑NHK+のHPへ飛びます

登録なんてしたくないよ!!って方は6月5日(木曜)午前0時あたりから再放送されるようです。

なんと同時間でNHK総合とEテレで放送されるようなのでリモコン片手にチャンネル変えながら見るか、録画してみてください☺️

都市部でも地方でも日本全国で多くの病院が保険診療では赤字になっており、そこで働く多くの医師だけでなく医療従事者が疲弊した状態というのが現場の感覚です。

今回は医師の話が中心でしたが、看護師の離職で病棟が閉鎖されている病院の報道も目にすることがあります。

これはあくまで一部分でしかないし、全てではないかもしれません。

全国でみれば黒字の病院もあるし、ピックアップされた病院の経営が下手なだけかも知れません。

見習えれば黒字化出来るようなところも多々あるかもしれません。

ですが既に多くの病院がこのような状態に陥っており、現場ではどうしようもない感があるところも事実として知ってもらいたいのです。

ここまで来ると、医療従事者一人ひとりの努力だけでなく、国や行政での改善策や強制的な介入も必要になってくるかもしれません。

少しでも患者さんに安心して治療を受けてもらえるように、まず医療従事者への安心が与えられる世界であってほしいなと切に願うばかりです。

それでは、さよなら、さよなら、さよならー☺️

今日のもぐったー:
ものすごく暗い内容になってしまいましたが、ある意味リアルな現場だなと思いました。医師のこのような話は不幸自慢になりがちですが、やはり私もこのような40-50時間家に帰れなかったことや、外来の長椅子で一晩明かした話など思い返せば色々出てきます。おっと、不幸自慢はやめておこう笑 ここは政治ブログではないので何かを誰かに求めることはしませんが、これから先の自分の娘や、その子どもが安心して医療を受けられて、そして少しでも希望を持って医療職につけるような世の中になってくれることを望みます。ピックアップされた2つの病院の今後に幸あれ。

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