
手術できるかの判断はどうやって行う?
“検査の結果、癌が検出されました。今はステージ的にも切除可能なので手術で取りましょう。”
「手術なんて怖いです。」
「先生、私、手術なんて耐えられるんでしょうか?」
こんにちは。外科医のもぐたんです。
手術…。急にそんなこと言われても怖いですよね。
というか急じゃなくても怖いですよね笑
・全身麻酔で寝たら起きれるのか。
・ちゃんと取り切れているのか。
・起きたらちゃんと動けるのか。
・無事に家に帰れるんだろうか。
・手術前と同じ生活が出来るんだろうか。
悩みはつきないと思います。
実は外科医も悩みます。
・この人に手術をして大丈夫なのか?
・合併症なく経過してくれるだろうか?
・無事に家に帰すことが出来るだろうか?
・ちゃんと治せるだろうか?
日々葛藤しています。
それではどこを判断基準にして手術や治療が可能かどうか、手術をおすすめするのか、しないのかを判断しているのか。
この記事では、外科医が患者さんの治療として手術を選択する際の、身体的な適応=耐術能について解説していきます。
耐術能を判断する指標のアレコレ
実は手術や治療に耐えられるかどうかの指標、合併症の予測の指標などはいくつもあります。
それら全てを計算し、当てはめて手術可能かを決定しているわけではありません。
あくまで指標の1つとして判断材料にする、といったところです。
現在の医療では、これが全て!!
これが良ければ手術出来る、ダメならやらない。
という絶対的な指標が決められているわけではないと思います。
それぞれの指標の説明、指標の中の項目を1つ1つ説明していくとものすごく長くなります。
簡単にざっくり説明していきましょう。
また、手術の内容や、脳外科、心臓外科、呼吸器外科、消化器外科など各分野でそれぞれ重要視するポイントが違いますので、主に消化器外科や腹部手術について説明していきます。
- 高齢者総合機能評価(CGA)
- E-PASS
- 高齢者機能評価簡易ツール(G8)
- サルコペニア
- フレイル
などがあります。
探すと他にもあります。
そんなん専門的すぎてわからんよ…。
仰るとおりです😂
医師もこれら全ての1項目ごとを把握しているわけではありません(多分)
これらは1つ1つで記事になるくらいなのでまた違う機会に解説することにしましょう。
では、実際の現場の診察時にはどのような項目をみているのでしょうか?
外来で医師が診察して判断する基準
先ほどあげたように1つ1つの項目を細かく確認して、スコア化して、と全部やっていたら見ていたらキリがありません。
病院や科の中では、前述にあげたものをウチではこれを使っていますよ。
という風に決め事にしているところはもちろんあると思います。
ここでは、患者さん自身でも判断しやすいような項目を中心に解説していきます。
年齢
特に絶対的な制限があるわけではありません。
90歳でスタスタ歩く方もいれば70歳でヨボヨボの方もいるからです。
しかし、もちろん高齢であれば余力、という点では予備能力が落ちてきますので、参考指標といったところでしょう。
私が行った全身麻酔の手術の最高年齢は96歳だったかと思います。
ちなみに抗がん剤などの化学療法は逆に75歳前後で区切られることが多く、手術のほうが適応年齢が高かったりします。
抗がん剤がダメだからあなたは手術しかありません。
って少し意外な気がしませんか笑?
認知機能/意欲
多少の物忘れは年齢に応じて必ず出てきますので、ここでいう認知機能というのは、
手術をすることを理解出来ているか
毎回同じ意思を示せるか
毎回手術する意欲があるかどうか
などで判断することが多いです。
理解できないまま手術をするのはお互いの関係にとってもちろん良くないですし、術後は点滴や腹腔ドレーンといったものがありますので、理解できずに自己抜去されると非常に危険です⚠️
また外来に来られるたびに、今日はやりたい。次に来た時はやりたくない。といって判断に一貫性がない場合は判断能力に乏しい、ということになり手術は行えません。
PS Performance Status
パフォーマンス・ステイタスといって、
患者さんの「全身状態」や「日常生活の自立度」を評価するための指標です。
0 | まったく問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活が制限なく行える。 |
1 | 激しい運動や肉体労働は制限されるが、歩行や軽作業、座っての作業はできる(例:軽い家事や事務作業)。 |
2 | 歩行や身の回りのことはできるが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。時に少し介助が必要なこともある。 |
3 | 限られた身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドや椅子で過ごす。しばしば介助が必要。 |
4 | 全く動けず、身の回りのこともできない。終日ベッドや椅子で過ごし、常に介助が必要。 |
ざっくり言うと、寝床や休憩する場所から1日の間どの程度離れられるか、ということになります。
手術の適応と考えるのはPS2までが一般的で、1日の半分以上ベッドにいる場合(PS 3以上)は厳しいと判断します。
また自力で外来に来れるかどうか、というところもみています。
外科医は患者さんが診察室に入った瞬間から判断が始まっているのです。
ADL
ADLとはActivities of Daily Living/日常生活動作のことで、
1.起居動作(寝たり起きたりする)
2.移乗(ベッドから車椅子などに乗り移る)
3.移動(歩く、車椅子を操作する)
4.食事
5.更衣(服の着替え)
6.排泄(トイレの使用)
7.入浴
8.整容(歯磨き、洗顔、髪を整えるなど)
上記の身の回りのことがある程度自力で出来るかどうかになります。
やはり全部を介助で行っていると、手術の内容にもよりますが中々手術の判断をするのは難しいことがあります。
既往歴 基礎疾患
過去にかかった病気、今治療中の病気で手術、全身麻酔をすることで命の危険を伴うものがないかどうかを判断します。
他にも、今回治療すべき病気(例えば癌)の他に未治療の癌が以前よりあって、そちらは治療していないのに、今回だけやるべきだと言われたからやる、などはバランスが悪いですよね。
術前の検査で判断するもの
診察時の全身状態の評価や問診内容以外にも検査で判断することもあります。
手術すべき病気以外に、他に治療をしなければならない病気があるかどうか、手術より優先すべき病気があるかどうかになります。
血液検査
健康診断でお馴染みだと思います。
主に確認するのは、
血液中の血球の状態、貧血の有無、血が止まるかどうか(血小板数や凝固機能)
電解質異常(ミネラルのバランス異常)
肝臓の機能
腎臓の機能
心機能
心電図や心臓の超音波検査を行うことで、
不整脈の有無
心臓の動きの問題
心臓弁の病気の有無
全身麻酔中に血圧の維持が出来るか(心不全はないか)
などを判断していきます。
肺機能
スパイロメトリーという検査で、肺活量や1秒量、1秒率などを測定します。
要は空気を吐き出す力、空気を溜める力が十分あるかを見ていきます。
全身麻酔時の人工呼吸器管理に耐えられるか
術後に肺炎、呼吸不全を起こさないか
などを判断していきます。
その他にも前述のサルコペニア、フレイルといったものでは、栄養状態、筋肉量、体重、BMI、運動機能などを指標とすることはありますが、細かい部分になってくるので旦割愛します笑
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ここでは全身麻酔の手術に耐えられるかどうか、外科医が実際に判断しているものをわかりやすく解説をしてみました。
判断する指標として知られているスコアリングシステムもいくつもありますが、
基本的には、年齢、認知機能、普段の生活の様子、基礎疾患などから判断されることが多いです。
血液検査や心機能、肺機能などで異常が見つかった場合は心臓内科や呼吸器内科、麻酔科の先生、他科の先生と相談・連携して行っていきます。
患者さんの状況次第では、生活の状態から看護師、栄養状態に関して栄養士、薬剤の術前の調節から薬剤師が介入・連携・サポートしていくことになるでしょう。
患者さんが手術を希望されれば、最終的にgoサインを出すのは外科医ですが、そこに至るまで多職種間で情報を共有しチーム一丸となって手術に向かって全力で頑張ってくれることでしょう。
手術は怖い。
でも根治には手術が必要。
そんな時は思い切って手術を選択してみてはいかがでしょうか。
それでは、さよなら、さよなら、さよならー☺️
今日のもぐったー:
手術って心配ですよね。何が起こるかわからないし、実際に何が行われているかもわからないし。でも手術を勧める外科医も、この人にはこの手術は耐えられないかもしれない。というものはあまり勧めません。という意味では医師から手術を勧められている時点である程度外科医はこの人なら大丈夫と考えながら勧めています。もちろん、緊急手術で今この手術をしなければ命を落としてしまう、という場合は本人の状態云々言っている場合じゃないことはあります。記事に書いている項目で判断していくのはもちろん大前提なのですが、患者さんと接した時点で直感的に判断は出来ています。おそらくオーラや生命力、雰囲気のようなものを感じ取っているのかもしれません。多分大丈夫、頑張ってくれると。もちろん手術が可能であっても合併症が起こることはあり得るし、術後の生活が術前の生活に戻れるかどうかは別の問題です。ただ、外科医はこの人ならきっと打ち勝ってくれる。そう願いを込めて、手術はどうですか?と尋ねているのです。
以下は今回の参考文献です。
斎藤 拓朗ら 2017高齢者に対する外科周術期の問題と対策https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/54/3/54_54.299/_pdf/-char/ja
松島ら 2017 高齢者総合機能評価を用いた高齢者肝胆膵外科治療方針の提案 胆と膵Vo1.38 (3) p.217~225,2017
益田ら 2019 高齢者(80歳以上)の耐術能はどのように評価すべきか?https://mol.medicalonline.jp/library/journal/download?GoodsID=aa6tnsid/2019/004005/004&name=0373-0377j&UserID=1100006639-00&base=jamas_pdf
Miura 2022 Surgical risk assessment for super-elderly patientshttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35118789
市村ら 2024 高齢者機能評価簡易ツールGeriatric-8(G8)に基づく約薬連携フォローアップの有用性https://jaspo-oncology.org/file/981
梅垣 高齢者総合的機能評価https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/kensyu/pdf/data_02.pdf